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福岡高等裁判所 平成9年(ネ)551号 判決 1998年3月24日

控訴人(被告) 株式会社タイホウ物産

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 山出和幸

被控訴人(原告) 株式会社神生

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 萩元重喜

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  控訴人は、被控訴人に対し、金四九万二八五〇円を支払え。

三  控訴人は、被控訴人に対し、平成一〇年六月五日、平成一一年六月五日、平成一二年六月五日、平成一三年六月五日、平成一四年六月五日及び平成一五年六月五日限り、それぞれ金四九万二八五〇円ずつを支払え。

四  被控訴人のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その四を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

六  この判決の第二項は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  控訴人は、平成三年一二月一八日、別紙手形目録<省略>の各約束手形(以下「本件各手形」という。)を振り出し、被控訴人はこれを所持している。

2  福岡地方裁判所は、平成四年一一月二日、控訴人に対し和議開始決定をし、右手続において、控訴人は、和議認可決定確定の日から一年目の日を第一回とし、爾後一年ごとに一〇回にわたり、各和議債権元本の五パーセント宛て支払うことを内容とする和議条件を提出し、右和議は平成五年四月二八日に認可され、右認可決定は同年六月五日に確定した。

なお、本件各手形に係る和議債権の額は、その元本合計一四三九万九三一六円である(以下、この債権を「和議条件に拘束されない本件和議債権」という。)。

3  よって、被控訴人は、控訴人に対し、和議条件に拘束された本件和議債権(平成六年から平成一五年まで毎年六月五日限り七一万九九六五円宛て支払を求める債権)の内金として、次のとおり求める。

(一) 金八二万三六四六円及びこれに対する平成八年六月二五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払

(二) 金四九万二九〇七円の支払

(三) 平成一〇年から平成一五年まで毎年六月五日限り、各金四九万二九〇七円の支払

(被控訴人が、平成九年一月二一日の原審第四回口頭弁論期日に、和議条件に拘束されない本件和議債権一四三九万九三一六円を自働債権とし、控訴人の被控訴人に対する別紙債権目録<省略>の債権合計四五四万一一七三円を受働債権とする相殺の意思表示をしたことによる、和議条件に拘束されない本件和議債権の残額九八五万八一四三円について、請求原因2の和議条件に従って支払を求めるもの。ただし、右(一)は、平成六年ないし平成八年の各六月五日支払分合計一四七万八七二一円から、控訴人による平成七年一一月一六日の既払額金六五万五〇七五円を控除した残額である。)

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、被控訴人が本件各手形を所持していることは知らない。その余の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

三  抗弁

1  控訴人は、被控訴人に対し、平成七年一一月一六日、六五万五〇七五円を支払った。

2(一)  控訴人は、被控訴人に対し、平成元年一一月ころ、デリバリーホース及びベント管を、代金合計六万四八九〇円で売り渡した。

(二)  控訴人は、平成七年一一月一六日、被控訴人に対し、右代金債権をもって、本訴請求債権と対当額で相殺する旨意思表示した。

3(一)  控訴人は、平成元年一一月三〇日ころ、被控訴人に対し、コンクリートポンプ車一台を、代金は二二六八万三一一八円とし、平成二年一月から平成六年一二月まで毎月末日限り三七万八四〇〇円宛て(ただし、最終回は三五万七五一八円)支払う、遅延損害金は日歩一〇銭とするとの約定で売り渡した。

(二)  控訴人は、平成八年一〇月二八日の原審第二回口頭弁論期日において、被控訴人に対し、別紙自働債権表<省略>のとおりの、右売買代金債権のうち平成四年五月から平成五年四月までの支払分合計四五四万〇八〇〇円及びこれに対する各支払日から平成六年六月五日までの右約定利率による遅延損害金合計二五七万六五二一円をもって、その支払期日の早いものから順に(ただし、元本と遅延損害金とでは遅延損害金を先に)、本訴請求債権と、対当額で相殺する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2及び3(一)の事実は認める。

五  再抗弁

1  控訴人(代理人C)は、平成二年二月下旬ころ、被控訴人に対し、抗弁2(一)の売買に基づく被控訴人の代金債務を免除する旨意思表示した。

2  控訴人は、請求原因2の和議手続において、和議条件に拘束されない本件和議債権を承認しておきながら、抗弁3(二)のような相殺の意思表示をすることは、禁反言の原則に抵触して許されない。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1は否認する。

2  同2は争う。

第三証拠

本件記録(原審及び当審)中の書証目録及び証人等目録<省略>のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因について

請求原因1のうち被控訴人の本件各手形所持を除く事実は、当事者間に争いがなく、証拠(甲二、三の各1ないし3)によると、右手形所持の事実を認めることができる。

請求原因2及び3の事実は、当事者間に争いがない。

なお、被控訴人は、原審以来、本件支払請求の根拠を請求原因4末尾の括弧書きのとおり主張しており、和議債権の内金請求にすぎないのではないかとの当裁判所の釈明にも応じなかったものであるが、被控訴人の請求は和議債権の一部請求(その一部は将来請求)であると解される。

二  抗弁1について

抗弁1の事実は、当事者間に争いがない。ところで、当事者による弁済充当指定の主張立証はないから、支払われた六五万五〇七五円は法定充当されたことになる。そして、平成六年六月五日を弁済期とする和議債権七一万九九六五円に対する平成六年六月六日から平成七年一一月一六日まで(五二九日)の商事法定利率年六分の割合による遅延損害金は六万二六〇七円(四捨五入。以下同じ。)であり、平成七年六月五日を弁済期とする和議債権七一万九九六五円に対する平成七年六月六日から同年一一月一六日まで(一六四日)の商事法定利率年六分の割合による遅延損害金は一万九四〇九円である。したがって、支払われた六五万五〇七五円は、まず右遅延損害金合計八万二〇一六円に充当され、残額五七万三〇五九円が平成六年六月五日を弁済期とする和議債権元本に充当される結果、右和議債権元本が一四万六九〇六円残ることになる。

三  抗弁2及び3について

1  和議条件によって期限の猶予がされて弁済期が変更された場合に、和議債権者が和議債権を自働債権とし、和議認可決定前に和議債務者に対し負担した債務を受働債権として相殺をすることは、和議条件によって変更された弁済期が到来しない限り、許されないものというべきであり、また、和議債務者が和議認可決定前に取得した債権を自働債権とし、弁済期未到来の和議債権の期限の利益を放棄してこれを受働債権として相殺することも許されないものというべきである。けだし、和議は、いわゆる再建型の倒産手続であり、和議条件は、和議認可決定の確定により和議債務者はもとより和議債権者全員に対して効力を有するものであるところ、前記相殺を認めることは、特定の和議債権者だけが和議条件によらないで弁済を受けるのと同一の結果をもたらすこととなり、和議条件の円滑な履行を期することができなくなるからである。

2  抗弁2の(一)の事実は、当事者間に争いがなく、再抗弁1の免除の事実は、これを認めるに足りる的確な証拠はない。

抗弁2の(二)の事実は、当事者間に争いがないところ、当該時点で弁済期の到来している和議債権は、平成六年六月五日を弁済期とするものの残元本一四万六九〇六円のみであるから、これと抗弁2の(二)の売買代金が対当額で消滅し、右和議債権元本が八万二〇一六円残ることとなる。

3  抗弁3の(一)の事実は当事者間に争いがない。

同(二)の事実は、当裁判所に顕著であるところ、再抗弁2の事実は、これを認めるに足りる的確な証拠はない。そうすると、当該相殺の意思表示の時点で弁済期の到来している和議債権は、平成六年六月五日を弁済期とするものの残元本八万二〇一六円、平成七年六月五日を弁済期とする七一万九九六五円、平成八年六月五日を弁済期とする七一万九九六五円であるから、まず、平成六年六月五日において、同日を弁済期とする和議債権残元本八万二〇一六円と別紙自働債権表の1の遅延損害金の内八万二〇一六円とが相殺適状となって消滅し、平成七年六月五日において、同日を弁済期とする和議債権元本七一万九九六五円と、別紙自働債権表の1の遅延損害金の残り一九万六一〇八円、元本三七万八四〇〇円及び同表の2の遅延損害金の内一四万五四五七円とが相殺適状となって消滅し、平成八年六月五日において、同日を弁済期とする和議債権元本七一万九九六五円と、別紙自働債権表の2の遅延損害金の残り一二万一三一五円、元本三七万八四〇〇円及び同表の3の遅延損害金の内二二万〇二五〇円とが相殺適状となって消滅したことになる。

四  結論

以上によると、被控訴人は、現在の給付請求として、平成九年六月五日を弁済期とする和議債権元本七一万九九六五円及びこれに対する同月六日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の請求権を有し、かつ将来の給付請求として(なお、本件においては、あらかじめ請求をする必要を認めることができる。)、平成一〇年から平成一五年まで毎年六月五日限り各七一万九九六五円の和議債権支払請求権を有するものである。

そうすると、被控訴人の請求原因3記載の請求のうち(一)の請求は理由がなく、(二)及び(三)の請求は右の請求権の範囲内であるから理由があるところ、(二)及び(三)の請求についての原判決の認容額は被控訴人の請求を下回るものであるが、被控訴人による控訴ないし附帯控訴はない。よって、一部結論を異にする原判決を主文のとおり変更することとする。

(裁判長裁判官 小長光馨一 裁判官 古賀寛 吉田京子)

<以下省略>

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